☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


37遠い存在9

高村が一緒にいるという大学生くらいの男と言うのは、どうにも彼氏という雰囲気ではないらしい。
頻繁に一緒にいるわりに恋人らしい雰囲気が少しも感じられないというのがその理由。
ずいぶんと主観的な理由だが、そういうものは案外バカに出来ないとオレは思う。
空気と言うのは、思いのほか正直に伝わるものだ。




その目撃者とやらは高村と直接的な面識は全くないそうだが、高村自身がそれを裏付ける発言をしているからにはやっぱりそれは高村本人で間違いないんだろう。
そしてその男を「友人」だと言うのなら、やっぱりそれが事実なんだとオレは思う。
あいつは嘘はつかない。つけない。
信頼している相手に対し、いい加減なことは絶対に出来ない。
そういうやつだ。
だからこそ腑に落ちない。
目撃者の見た「大学生」は、長身細見、ゆるいウェーブのかかった明るめの髪色に黒縁メガネ。クールな雰囲気だと言う。
オレの見た「大学生」の風貌とはどうにも一致するところがない気がする。
よほど思い切ったイメチェンをしたのだとしても、長身と言うほどではなかったし細見と言い切れるかと言うとそこも疑問符がつく。
たった二回見ただけだが、オレにとってはいやってほど目に焼き付いてしまった出来事だ。
オレの見た「大学生」と高村は単なる「友人」なんかじゃないはずなんだ。
◇◇駅の男は、別人だ。
つまりあいつはあの人とは違う別の男と頻繁に会っているということになる。
そいつも高村のバイト仲間、もしかすると男二人は年齢的に友人の可能性もある。
だとするなら、高村があの人のことを相談してるというのが一番単純な答えのように思える。
けれどそうも毎週、なにを相談することがあるんだろう。
あいつの性格なら、むしろ相手にはっきり伝えそうなんだけど。
ああ、だけど、大切に思っているからこそ本人に言えないことってのもあるからな・・・・・・。
「・・・・・・・・」
だめだ。
また凹んできた。


「しかしやっぱりな、俺には軽率な行動だと思えてならないよ」
すっかり自分の思考の中に沈み込んでいたオレは野々宮の言葉でようやく我に返った。
「なにを急いでそんな背伸びした人間関係を持っちまうんだろうな。ガキでいられる時間なんてあっという間だってのに」
野々宮の心配も優しさもちゃんと伝わってくる。
だけど、先生。
世の中にはガキでいられないやつもいるんだ。
高村は、学校でも家でもガキでいられやしなかった。
バイトを始めたのはそんな毎日の息苦しさから脱出するためだったのかもしれない。
そして高村はそこに居場所を見つけたはずなんだ。
あの冬の日にオレが見たのは、きっととても幸せな光景。
そんな気がする。
高村は、あれからどんどん綺麗になっていく。


「あいつは臆病で強がりで自分よりも他人のことを考える。
周りはちゃんと見えてるくせに自分のこととなるとひどく偏屈だ。不器用すぎてみてられない。
何かトラブルを抱えてるなら何とかしてやりたいんだよ。大事な教え子だ、放っておけない」
その口調は本気で高村のことを考え心配しているのがよくわかって、やっぱり高村の信頼を受けるだけの人なんだと実感する。
そうだ。
高村は警戒心だって強い。
◇◇駅の大学生だって、きっと信頼しているからこそ頻繁に会ってるはずなんだ。
あいつには頼りにできる人間が、今はちゃんと傍にいる。
それはいいことじゃないか。
あいつを独りにしない。
それがオレの望んでたことでもあったじゃないか。

「あいつが自分から話してくれたらそれに越したことはなかったが、まだ難しそうだ。
けどまあ、とりあえず当面は校則違反に引っかかることはないだろうからな。
今はこれで良しとしなきゃあな」
「もしかして先生、わざと高村に確認したのか?」
生活指導部が動く前にあいつが対処できるように。
ニヤリと野々宮は笑った。
「俺は教師としては未熟だからな、生活指導部の方針を理解してなかったんだよ」
野々宮の親しい教師たちも内密に遊園地のバイトのことを信頼できる生徒にリークしているらしい。
こういうことは生徒同士の方が話が早い。
生活指導部長のナツギが意気込んで遊園地に乗り込むころには、そいつはもう辞めているに違いない。
「校則違反はもちろんダメだが、ただ謹慎させたところでなんの解決にもなりはしないからな。
問題の本質を見ようとしなきゃ俺たちはいつまでたっても生徒の心には寄り添えない。
そんなの教師とは言えないだろ。勉強を教えるだけなら塾の講師で足りるんだよ」
これはナツギに対する若手教師の反乱なんだ。
オレは笑った。
「まあ、そんな偉そうなことを言ってみてもだ、あいつの本音はいまだにちっとも掴めないんだがな」
難しいな、と野々宮は苦笑する。少し寂しそうにも見えて、なんだか自分と重なってしまう。

実際のところ、オレは高村の本心に一度でも触れたことがあったんだろうか。

同じ空間に居ながら互いの存在をなかったように過ごしている今じゃ、
あいつといた日々は、オレの夢でしかなかったんじゃないかって思えてきてしまう。
だけどあいつがなかったことにしたいと思っても仕方ない。むしろそれが当然だろう。
オレのしたことは、あいつのことを知りもしないで好き勝手言う連中よりもずっと酷い。

オレにとって高村はもうずいぶんと遠い存在なんだ。
高村がどんな事情を抱えているにしても、オレが介入することをあいつは快く思わないはずだ。
そもそもそんな資格はオレにはない。

「先生、オレやっぱ何の役にも立たない。あいつのことオレはなんにも知らないんだ」
あいつの周りにはあいつを思う人間はたくさんいる。
あいつが頼りにできる人間だってたくさんいるんだ。
オレなんかに心配されたくなんてないだろう。

「なに言ってんだ?よく知ってるじゃないか」
驚いた顔をされて、わけが分からない。
「高村のこと、お前はちゃんとわかってると思うぞ俺は」
野々宮は笑う。
「相談して正解だった」
その見解は間違ってる。
そう言いたくなったが、行ってどうなることでもない。オレは口をつぐんだ。

野々宮は椅子の向きをくるりと変え、窓の外に広がる青空を見上げる。
「あいつの家の事情については、俺も一応は把握してる。
あいつがそのことで辛い思いをしてきたことも容易に想像できる。
やけに臆病なのも強がりなのも、あいつなりに生きてくのに必死なんだってわかるよ。
だけど弱音を吐いたり、人を頼ったり助けてもらうことは悪いことでも情けないことでもないんだ。
自分のことを気にかけてくれるやつがちゃんといる。信頼に応えてくれるやつらがちゃんといる。
信頼と言うのは一方通行なんかじゃあねえんだよ、それをわからせてやらないとな・・・・・・」
ガタリ、という音と共に野々宮が立ち上がった。
「遅くまで悪かったな」
進路指導室を出るオレの背を、野々宮の手がポンッと叩く。
結局、オレはただ野々宮の話を聞いていただけでしかなかったが、野々宮は笑ってた。
「助かったよ、ありがとな」
ただそれだけの言葉が、オレにはひどく暖かなものに感じられた。
誰かにありがとうなんて言われるのは久しぶりな気がする。
何かした訳ではないから、ちょっと心地悪いところもあるが、それでもやっぱり嫌な気はしない。
野々宮が適当な言葉を使うような奴じゃないって知っているから余計にだ。

廊下をいくらか進んだところでオレは立ち止まり振り返った。
「その・・・・・何かあれば、知らせるから。高村のこと」
それだけ言い、背を向け再び歩き出したオレの背に野々宮の声が届く。
「おう、そうか!心強いな!気を付けて帰れよ」
「ガキじゃあるまいし」
きっと野々宮はいつもの皮肉さを含んだ笑みを浮かべているに違いないと思った。





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