☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

<< 35遠い存在7  TopPage  33遠い存在5 >>

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

トラックバック

トラックバックURL
http://lovesweetsweetberry.blog54.fc2.com/tb.php/495-f32aab2c


34遠い存在6




その日の英語の授業は、与えられた長文の和訳をひたすら行うというものだった。

英語担当のナツギは、生徒からとにかく受けが悪い。
上から目線の粘着質・神経質、加えて陰湿な性格をしていて、女子に対してはさらにいやらしい感じでねちっこさが増すらしく、一部の女子の間では「セクハラ親父」と気持ち悪がられている。
けれどこのナツギ、よりによって生活指導部でもあるもんだから、たちが悪い。
去年ナツギに目を付けられた生徒がとうとうブチ切れて思わず手を出し、即刻退学となった経緯もある。
生徒の言い分すらナツギによってもみ消されたという噂が今もある。
保身のためには生徒も犠牲にするような奴だというのが、オレたち生徒側の認識だった。
文系理系どちらにしても重要な英語の担当である以上、どれほどナツギが嫌いでも、向こうに非があったとしても、露骨な態度は取れない。
関わらないのが一番だ。
だからナツギの授業中はしんとした空気が漂う。
それは特進であっても同じだった。
ナツギは野々宮を嫌っている。
憎んでいると言ってもいいかもしれない。






特進の担任は従来数学か英語のベテラン教師がなるものらしい。そんな決まりが実際にあるかどうかはわからないがこの数年間はとにかくそうだった。去年は渡辺というかなりのキャリアのある数学教師が赴任してきたからナツギは特進担当ではなかった。けれど今年、その渡辺は進路指導部長になり担任業務からは離れた。ナツギとしては今年こそは自分が特進担任になると確信していたに違いない。けれど実際は若手の国語教師である野々宮が特進担任になった。ナツギにとっては完全な番狂わせだったのだろう。
そもそも渡辺とナツギは反りが合わない。
頭は切れるが結構直感型の渡辺とは逆に、ナツギは屁理屈をこねる。
特進担任の慣例を破ったのも、実は渡辺がナツギを嫌っているからと言う憶測もある。
そして野々宮の性格はどう考えたって、渡辺寄りだ。
加えて野々宮は生徒たちにも慕われている。顧問をしている野球部員たちからの信頼もあつい。
生徒が寄り付かないナツギとしては二重三重に野々宮が疎ましく見えるだろう。


ナツギの野々宮に対する態度の悪さは露骨だった。
オレたちに対しても、事あるごとに野々宮に批判的な話をする。
「野々宮先生は若いからな。お前たちは気楽だろうが進路のこととなると困ることが出てくる。いつでも私に相談に来なさい」
ナツギが待っているのは相談なんかじゃなく野々宮の足元をすくう道具だ。
そんなことは全員よくわかっているから、授業以外でナツギと言葉を交わす生徒はほとんどいない。
授業中も、あまり積極的に発言する生徒は少なかった。
この日も、辞書を捲る音と書き込む音しか聞こえてこない。
ナツギは生徒たちの様子を監視するように、教室の中を緩い歩みで見回っている。

正直英語は好きではない。
今日みたいな自主学習形式(しかもレベル高すぎ)にされると、お手上げ状態だ。
音ひとつ立ててはいけないかのような教室内の空気もひどく息苦しい。

「なんだ、わからないのか」

唐突にナツギの声が響いた。
思わず顔を上げる。他の連中も同じだった。
ナツギが声をかけていたのは、高村だった。
月例テストの順位表を見ている限り高村は英数がほかに比べれば苦手のようで、それは昔っから変わっていない。
普段も英語が得意なナルや水島に教えてもらっている姿を見かける。
「どこがわからない?」
「え…と、この単語の意味が、どれかわかりませんでした」
仕方なく答えてる感じの高村の声が聞こえる。
「なるほど」
ナツギは高村の背後に回り込んだかと思うと、上体を前のめりにし彼女の辞書を引き始めた。
まるで後ろから抱きしめているように見える体勢にぎょっとする。
「ここはだな」
ナツギは超至近距離で高村に解説を始める。
様子を見ようと振り返った高村の前方のやつらが、目を剥いたのも見えた。

「・・・・わかりました。ありがとうございます」
冷静な高村の声が聞こえた。どうやらようやく終わったようだ。
けれど。
「ここも違うな」
トントン、とノートを叩く音。
「これはだな、―――――――」

こうなってくるとさすがに教室内のざわつきは大きくなる。

「先生!質問です」
オレの隣の席の水島が手を上げた。
なのに。
「今、高村に教えてる最中だ。ナル、教えてやりなさい」
ナルは英語の成績は校内トップだ。
けれど今のナルは苦い顔を浮かべて水島と目顔でなにやりとりしている。
英語学科志望のナルがはむかうことは出来なくて当然だ。
他の連中だってそうだ。進学したければナツギに睨まれるわけにはいかない。
「・・・」
オレは就職希望だ。
ナツギなんて関係ない。
それに高村が。
高村がこんな目に遭ってるのをこれ以上黙って見ているなんてできない。
立ち上がろうとしたオレの腕を水島がぐっと掴む。
『ダメだ』と言うように首を強く横に振る水島。
いまだ口もきいたことのない水島の突然の行動。
戸惑うオレの腕を一層強く押さえつけてくる。
「こらえて」
水島の口がそう動いた。

結局誰一人何もできないまま時間が過ぎ、ようやく鳴ったチャイムと同時に教室のあちこちで大きな物音が立つ。
いつもならナツギの終業の言葉までは静まり返っているのに。
特進のやつらの精一杯の抗議だった。

「・・・・・今日はここまで。全員、今日の課題を次までに仕上げてくること」
ようやくナツギが教室を去ると一斉に高村の周りに人が集まって彼女を慰め励まし、ナツギに怒っている。
「だいじょうぶ。みんなありがと。少し、外の空気吸ってくるね」
高村は無理に笑顔を浮かべてそう言うと、席を立った。

オレはその背を追った。
けれど高村の姿は見当たらなかった。
全然、大丈夫なんかじゃねえじゃねえかよ。
「くそっ!!」

あいつの姿を見つけたのは、特別教室棟だった。
廊下の壁に寄り掛かり、しゃがみこむ高村の背は小さく震えていた。
籠った嗚咽の声がしんとした廊下にかすかに響く。
すぐそばにオレがいることに気づいているわけじゃない。
それでも泣き声を必死に押し殺す高村の姿はひどく衝撃的で、声をかけることすらできなかった。
どれくらいそうしていたのかわからない。
ふいにオレの横をナルが駆け抜け、しゃがみこんでいる高村の腕を掴んだ。
「保健室、いこ」
いつも愛想笑いを浮かべているナルが、今は真剣に高村を心配している。
それでも立ち上がらない高村の体を抱えるようにして、ナルは歩き出す。
遠のいて行く二つの背中をオレは見送ることさえできず、その場を去った。

ナルが教室に一人で戻ってきたのは次の始業ギリギリだった。
「先生についてもらってるから大丈夫」
ナルの言葉を受けて水島が続く。
「この話は稜ちゃんの前ではしないであげて」
クラス全員が頷いた。





関連記事
スポンサーサイト

<< 35遠い存在7  TopPage  33遠い存在5 >>

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

トラックバック

トラックバックURL
http://lovesweetsweetberry.blog54.fc2.com/tb.php/495-f32aab2c




Copyright ©☆きらきら☆. Powered by FC2 Blog. Template by eriraha.

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。