☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


32遠い存在4




特進に入ることを報告した時、親父はひどく喜んでくれた。
事前学習プリントを山のように出されて文句を言うオレを親父は「これは大変だな」と楽しそうに笑っていた。
親父のそんな顔を久しぶりに見た気がして、結果としてこの決断をして良かったんじゃないかと思った。

高校に入り少しは「学生」らしく過ごすようになったオレは、以前より家にいる時間が長くなったのは確かだった。
父子家庭になってからもうすぐ三年。家の中は、母親がいたころよりも落ち着いていた。
もちろん幼いリクトや雅彦にとっては辛いこともあるに決まっているけれど、少なくともオレと良平は、あのころよりもずっと気楽で。家事は決して楽ではなかったけれど、器用な良平を中心になんとかやっている。





「学校はどうだ?クラスにはなじめたのか?」
晩飯の最中に親父が尋ねてきた。
「あー・・・・まあ、ぼちぼち」
馴染めるも何もない。
確実にオレはあのクラスで浮いた存在だ。遠巻きに様子を見られている。
話しかけてくるのは坂下くらいで、それも先週のクラス委員の騒ぎのあとは多少静かになったようで助かっている。
「授業はやっぱり難しいのか?」
「ちゃんと聞いてれば問題ない。今ンところは」
授業の質はそれまでのそれとは絶対的に違った。
生徒の授業に取り組む姿勢が全然違うのだから当然だ。
特別違う内容をするわけではないにも関わらず全てにおいて突っ込んだところまで教えてもらえるし、これまでなんとなく疑問に思いつつそのままにしていたことも、このクラスになって解消したりもした。
昔は当たり前だったことを、ようやく少しずつ思い出していくような不思議な感覚。

「頑張ってるんだなぁ」
親父は頷く。やっぱり嬉しそうだ。
「兄貴は別に勉強が嫌いじゃないからなー。あ、この子、かわいー」
良平はオレの鞄から勝手に取りだしたクラス写真を見ながら言う。
「勝手に見んなよ」
「特進なんて言うからさ、ガリ勉ちゃんばっかかと思ったけどやっぱT高女子ってレベル高いよね~。
商業には敵わないけどさぁ。K高は逆に超まじめちゃんばっか。
M高はK高よりましって程度。工業は男ばっかだから除外だし。あー。ほんと、どこいこっかなぁ」
オレと違って成績優秀な良平は、今年受験生だ。
「お前、そんな理由で学校決めるのか?」
親父が目を剥いている。
「なに言ってんの?毎日あるんだよ学校。可愛い子がたくさんいたほうがいいに決まってんじゃん」
良平は小学時代から彼女が途切れていたためしがない。
ただ一人当たりの交際期間が短すぎるせいで、元カノがクラスに何人もいたりする。
それでもトラブル1つ起こさないのだから大したもんだと思う。器用なのは家事だけじゃないようだ。

「この子も可愛いじゃーん。こっちもなかなか・・・・・。うーん、でも一番はこの子かなっ♪」
「良平・・・・お前は・・・・」
呆れる親父の気持ちはわかるが、良平の気持ちも分からなくもない。
「うちには絶対くんなよ」
オレは思い切り良平を睨んでおいた。


「サッカー。ねえ、サッカー。起きて」
体を揺すられてようやく自分が寝ていたことに気が付いて慌てて起き上がる。
女の方も起きて間がないらしく、下着姿だ。
「ごめん、友達と約束してたの忘れてた。悪いんだけど」
「ああ、いい。オレも課題残ってるし帰んねえと」
床に放り出したままのシャツを拾って袖を通すオレに女が小さく笑った。
「サッカーの口から『課題』とか。なんかすっかり別人だよね。寝る間もないくらい忙しいの?」
「・・・・まぁな」
「初めてだよね、サッカーがそのまま寝ちゃうなんてさ」
「・・・・」
「寝顔、可愛かったー」
よほど疲れがたまっているのか、女の家で寝入るなんて初めてだった。
しくじった。
「ねぇ~今度さ、気晴らしにどっか遊びに行かない?二人でさぁ」
オレの顔を覗き込みながら女は笑顔を見せる。
オレはそれを冷めた目で見返す。
「そういうのがしたきゃ、他のヤツに当たれよ」
女の顔色が変わった。
オレは立ち上がり、部屋を出る。
その背中に女が抱きついてきた。
「また連絡ちょうだい?次はちゃんと予定空けておくから!ね?」
「・・・・・・・ああ」
こいつとも切れ時だな。
わりと気に入ってたんだけど。
オレは女の腕をほどくと外へ出た。

他の女とは一回きりか数回程度で終わりなんだが、この女とはもう半年近く、続いている。
割り切ってるとばかり思っていたけれど、いつの間にか慣れあっていたのかもしれない。
うっかり寝入るなんて、やらかしたとしか言いようがない。
もう潮時だろう。

知り合いの知り合いの、そのまた知り合い。
そういう女との付き合いが後腐れがない。
この女もそういう一人で、「マミ」って名前と商業高校の生徒ってこと以外、ほとんど何も知らない。
ただ。
声が似ていた。
あいつと。




女の家を出て、夕暮れの中、駅へと向かう。
「あれ?サッカーじゃんっ???」
駅方面からこっちに歩いていたやつが声をかけてきた。
「・・・・竹内」
「久しぶりじゃん?元気?」
「・・・・ああ」
竹内は中学の部活の同期だ。
学校をさぼるようになってから当然部活からも遠ざかってそれきりになっていた仲間の一人。
「竹内は、変わんねえな」
「アハハ。そんな簡単に人間変わるもんかよー。サッカー、T高だろ?あっこ、サッカー部ないじゃんよー。
ま、俺も今じゃテニスしてんだけどよぉ」
確か竹内は工業高校に進学したはずだ。ラケットを振る真似をする竹内にオレは「似合わねえな」と笑って返す。
「うるせーわっ。あいつらとは会ってる?俺、全然でさー。駅でちらっと見かける程度じゃん?」
「オレも」
「な、近いうち、また集まろーぜ。連絡入れるわ」
「・・・ああ」





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