☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


31遠い存在3



春休みは特進の授業に追いつくためにひたすら机に向かった。
T高に入るために猛勉強した以来だ。こんなに勉強したのって。
鈍り切っていた頭をフル回転し続けて、熱が出そうだ。
本当にオレが特進でやっていけんだろうか。
あの程度の高校から国公立大学目指すような連中に混ざって本当に耐えられるんだろうか。
新学期が始まる前から、くじけそうになる。
けれどそういう時は決まって高村のことを思い出しては、気持ちを立て直していた。

この時のオレは、ただ高村と同じクラスになれたらそれでいいって思っていた。
それがどれほど、苦しいことなのか、この時はちっともわかっていなかったんだ。



そして4月。
高村と同じ教室で過ごす1年が始まった。


わかりきっていたことだけれど、あいつはオレに視線を向けることはなかった。
気づいているのかさえわからない。
始業式のあと、クラス写真の撮影の順番待ちであいつは野々宮に話しかけられていた。
少し離れたここからでも、高村は変わったと思う。
ずっと、笑ってる。
中学の時は、二人の時はともかく、学校の中では本心から笑ってるところなんてあまり見たことなかった。
高村のホントの笑顔が見たくて、躍起になってたりもした。
高村が笑ってくれると、すごく嬉しくなってたのを思い出す。
けど今の高村の笑顔は、オレには少し苦しい。
「ずるくない?担任ってだけで独占とかさ」
不意にすぐ横から話しかけられて、オレはぎょっとする。
人懐っこそうな笑顔を浮かべているそいつはなんとなく見覚えがあった。
「鳴海。ナルって呼んでくれたらいいよ。サッカー、だよね?俺、去年4組だったんだ。
俺等だけでしょ、前半組からの特進入り。ま、お互い仲良くやろうよ」
親しみを込めた笑顔のままでナルは視線を野々宮と高村に向ける。
「声かけに行こうとしたら先越されちゃったよ」
爽やかな笑顔だが、今のは聞き捨てならない。
「稜ちゃんとは知り合い?」
「・・・・・・いや」
「え、そーなんだ。てっきりこっちも仲間だと思ったのに」
どっちの、なんの仲間だ。
つか、『稜ちゃん』って。
「稜ちゃん、可愛いしいい子だし気になるよね」
怪訝なオレの視線を、ナルは気にすることなく話を勝手に続ける。
野々宮と高村の様子よりも気になる話だ。
「俺ね、去年あの子に何度か教科書貸してもらったんだよね。俺のことなんて知らないのにさ」
T高は忘れものには厳しい。
特に教科書を忘れると確実にペナルティが課せられる。
ナルの話では、特進にいる友人に教科書を借りに行ったもののそいつも持っていなくて困っていたら、高村が貸してくれたそうだ。
それをきっかけに時々特進クラスに高村を訪ねるようになったらしい。
「オレ、結構女子に警戒されるんだけどさ。軽薄そうって」
ナルはへへへと笑う。
多分、その笑い方だろうな。軽薄さが漂うのは。
けれどそういう一般的な感覚が良くも悪くも高村には備わっていない。
それは今も変わっていないようだ。
複雑な気持ちになる。
撮影の順番が回ってきて、ナルとの話はそこで終わった。

ナルが特進に尋ねて行った友人というのは、水島というやつだとはすぐに分かった。
穏やかな笑顔を絶やさず、落ち着いた雰囲気の水島はクラスの信頼も厚いようだ。
その水島とナルが高村とかなり親しいことを翌日以降に続くクラス委員の選出に絡んだ出来事で知ることになった。



オレの所属する弓道部に、坂下という女がいる。
去年から特進のこいつは、入学当初からなぜかやたら付きまとってきて迷惑に思っていた。
それでも無下にできなかったのは、こいつが高村と同じクラスだったからだ。
放っておいてもべらべら一人で勝手にしゃべるこの女の口から高村の名前が出たのは結局一度もなかった。
こういう女と高村が親しくなるわけはなく、それがはっきりわかってからは坂下とは口も利かなくなった。

そしてその坂下は今年も特進にいた。
水島は去年も坂下と共にクラス委員をやったはずらしいが、今年は頑なに推薦されても固辞していた。
どうやら女子は、坂下がほぼ確定じゃないかという話だから、水島の固辞の理由はこの女にあるんだろう。
クラス委員が誰になろうがオレにはどうでもいいことではあるが、たびたび水島と高村が二人で何やら話し込んでいるのを偶然見かけたから、なんとなく引っかかってはいた。
特進に入ってからの数日。
事態は急転した。

水島が高村を引き込む形でクラス委員をようやく引き受けた。
水島に腕を引っ張られて壇上に並んだ高村はクラスの連中に冷やかされたせいで困り果ててはいるけれど辛そうではなかった。
ナルも書記になったから、この二人が結託して高村を巻き込んだのは明らかだったけれど、高村は拒まなかった。
見たことのない高村の姿だった。
けれどクラスの連中がノリだけで高村を選んだわけじゃ無いことは確かで、それは真面目すぎるくらいにクラス委員の仕事をこなしている高村を見ていれば分かることだった。

クラスの連中の高村への評価は高いし教師たちからも信頼されている。
中学時代、表立って何かすることのなかった高村が。
人目を避け続けていた高村が。
彼女を理解しようとしない連中ばかりの中で息苦しそうだった高村が。
今は、こんなにもキラキラ輝いて見える。
人づきあいが苦手で、恥ずかしがり屋で、意外とそそっかしい高村。
けどここには、そんな高村のことを当たり前に受け入れているやつらばかりだ。


嬉しくない訳がない。
高村には笑っていて欲しい。
そう願っていたのは本心なのに。

視線を合わせることさえないオレと高村の距離は恐ろしく遠い。
それを痛感するたびに、苦しくてたまらなくなる。

こうなることは覚悟していたはずなのに。

それでもやっぱり、こうして近くで毎日あいつを見る度に、
自分とあいつの世界はもう2度と重なることはないと思い知るたびに、
泣きそうなほど、叫び出しそうなほど、オレの心を締め付けていた。


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