☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


27もどかしさの行きつく先10


中3の春。
高村は前のクラスメートが誰もいないクラスにいた。
そして五月に入ったころには高村を学校で見かけることはめったになかった。
噂好きで騒々しいメンツがやけにそろっているそのクラスが高村にとって辛いだけの場所なのは最初からわかりきっていた。
加えて、「高村さん」と関わりを持ちたい連中が、授業中だろうが何だろうがお構いなしに高村を訪ねてきては、当然、教師と揉めるということが繰り返され、高村はどんどん孤立していったらしい。
もともと、高村は一人だったクラス。
あいつのことだから、腹は括っていただろう。
だけどきっと一人ぼっちで傷ついていたに決まってるのに。

とっくの前から学校から離れていたオレは、高村がそんな風になっていると知ったのはもう季節が夏になるころだった。



高村との関係がきれてしまったころからオレは、ぶらぶらと遊び歩いているうちに知り合った他校の先輩の家に入り浸るようになっていた。そこはオレみたいな連中のたまり場で、この界隈にとどまらず、いろんな話を耳にした。
その中でも「高村さん」の名前は聞かない日がなかった。
こっち側の連中にとって「高村ショー」は絶対的な存在。
そんな高村さんや彼と親しいハルさんたちに、オレら程度の連中が会うことなんてあるわけもないくらい遠い存在でもあって、そして彼らが可愛がっている「高村稜」にオレらみたいな連中が接触することは不文律となっていた。
この春、うちの中学の連中がハルさんにボッコボコにされた話は有名で、そいつらが高村を不登校にさせた連中だというのはすぐに察しがついた。
だけどそういう扱いをされてる高村を悪く言う連中もいて、随分ひどい噂も耳にした。
ここにいる連中はどいつもこいつも「高村」のことも、直接何一つ知りもしないくせに、憶測だけで勝手なことを言いまくってる。
それを聞くたびへドが出そうになった。
高村はそんな奴じゃない。
オレは知ってる。
自分がどんだけバカな間違いを犯したか、本当はわかってた。
高村にとって、家も学校も、苦痛でしかなかった。
どこへ行っても「高村の妹」というレッテルが貼られ、ホントの高村のことを知ろうともしない奴らが多すぎて。
それでも高村はオレに本音を見せてくれていた。
学校に来ないオレに、行こうと言ってくれた。
高村は、オレを大切に思っていてくれた。
ただオレの欲しいそれと違うってだけで、全部突き放してしまった。
本当に大事にしなきゃならないものをオレは自分から捨ててしまった。
そして高村を苦しめる連中と同じになってしまった。
もうどんな言い訳もできっこない。
あいつはオレを許してはくれないだろう。



初夏の頃。
駅のホームで、見たことのない年上の男と並んで座って話している高村を見かけた。
高村がバイトしてるらしいって話は聞いたことがあったから、バイト先の人だろうとは見当がついた。
見るからに優しくて穏やかそうなその人は、高村だけを見ていた。
高村は、楽しそうに笑っていた。
屈託なく、コロコロと。
反対側のホームにいるオレの耳に、聴こえるわけがないのに高村の笑い声が聴こえた気がして、オレは逃げるようにその場を立ち去った。


それから高村を見かけることは全くないまま、冬を迎えた。
相変わらず自堕落な生活を送っていたオレの前に梅本先輩が現れた。
「何やってんだ、お前は!」
穏やかな梅本先輩が、本気で怒っているのをオレは初めて見た。
からかったりすごんだりしてくるオレの連れたちに一喝し、オレを連れ出すと自宅まで連れていかれた。
「なんか不満があんなら言えよ。全部吐き出しちまえ。いくらでも聞いてやる。
だからもうやめろ、こんな生活。全然楽しそうに見えなかったぞ、お前。
お前がしんどいのはわかる。けど、親父さんだってお前が頼りだろ。
頑張れとは言わない。お前のことだ、いろんなこと我慢して踏ん張ってきて、辛いことだってたくさんあんだろ。
だけどな、だからって今の状況は違うよな?自分粗末にしてなんになんだよ?」
いるはずの、梅ンちの家族の気配が少しも感じられなかった。
いつもなら絶対顔を出してくる優しいおばさんも、人懐っこいチビも、梅すらも。
それがありがたかった。
暖かい家庭を絵に描いたような梅の家族を見てしまったら、オレはきっと何一つ本音を言えなくなっていただろうから。
オレは梅本先輩に、何もかもを話した。
家のことも、学校のことも、ぶらぶらしている今の生活のことも。
空っぽな自分へのいら立ちも。
本当は誰かに聞いてもらいたかったんだと、話しているうちに気が付いた。
そしてもう一つ気が付いたことがある。
なんの話をしても、何度も何度もあいつの名前が出てくる。
オレおかしいんじゃないかってくらい、高村ばっかで。
「お前にとって誰よりも大事な存在なんだなぁ」
梅本先輩は優しい目をして微笑んでいた。
「前にも話したことあったけどさ、稜ちゃんああゆう環境だろ?
お前もあんな連中とつるんでたならいろいろ知ってんだろ。ショーや稜ちゃんがどんなふうに見られてるか。稜ちゃん、サッカーのこと大事だったから怖かったんじゃねえ?一緒にいたら迷惑かけるって思ったんだろうよ。ひやかしすらあの子にとっては恐怖なんだろうよ。好意的な感情がある日突然悪意に変わるってこともさ、あの子はよく知ってるから」

オレと高村のことは、クラスじゃ公認みたいな空気があって。
だけど一方であいつとケンカした途端、周りに寄ってくるやつもいた。
二学期になって席が離れると、それは顕著になって。
高村はオレに近づこうとしなかった。
そしてオレの誕生日、一緒に過ごした時のあいつの表情。

オレが嫌になったんじゃなくて、オレといるのを見られたくないんじゃなくて。
オレが自分といるのを見られたらオレに迷惑をかけると思った?
そんなわけないのに。
オレだって噂の怖さは知ってる。
だけど高村となら、そんなのなに言われたって平気だったのに。
「あの子は臆病なんだよ。なくすのが怖いから大事なものを作らない。俺には、そう見えるよ」
「・・・・そんなの・・・」
寂しすぎる。
口にしたつもりがごにょごにょと声が籠る。
長時間しゃべり疲れたのと、吐き出して少し気が抜けたのと、それからこたつのあたたかさとで強烈な眠気に襲われていた。
もう夜中だ。眠くて当たり前だ。
「なぁ、サッカー。ちゃんと自分の想いを言葉にしろ。稜ちゃんとちゃんと向き合え」
梅本先輩の励ましを遠のく意識の中で聞いていた。


その時刻。
そこからほんの少し先の、あの三角の公園で。
高村が必死に助けを求めていたことをオレは知らない。




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