☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


10オレの事情 高村の事情4

山を切り崩して作られたこの辺の町は、どこもかしこも坂だらけだ。
その中でも高村たちの町は特に古くて、その周辺はバス道以外ほとんど整備しきれていない山の中の道。
今オレが通っている道も、町はずれにある大きな神社の横の、かろうじてアスファルトではあるけれど街灯の明かりもほとんど届かないうす暗い道。
けれどここからの急な下り坂は駅までの近道だ。
神社の横を抜ける時、視界の端っこでなにかが動いた気がしてドキリとして足を止める。
薄暗がりの社殿の奥を目を凝らしてそれが何かわかった瞬間、心臓が大きく跳ねた。
慌てて自転車のペダルを踏み込み、一気に坂道を下る。
駅前を通り越して、今度は自分ちへ向かう坂道をぐいぐいと上る。
息を切らしてようやく自宅にたどり着いたものの、その日はなかなか胸のバクバクがおさまらなかった。

翌日。
いよいよ席替えのくじ引きの時間がやってきた。
担任の用意したくじを全員が一斉に開く。
あちこちで自分の席番を言い合っている中でオレは高村を見守っていた。
オレの番号は6番。一番後ろ、窓側の席。
高村は?
あいつはどこに座る?

高村を目で追うオレの視界を松山が横切って、高村に声をかけながら席に着く。
松山は5番席。オレの前。
席に着く松山について行くように高村が座ったのは、12番席。

オレの隣!!!!

浮き立つ気持ちを必死に抑えながら、オレは自分の席に向かう。
「お、サッカーが後ろか!よろしくなっ」
「あ・・・・どぅも・・・」
笑顔の松山とは対照的な高村の微妙過ぎる薄い反応は、正直へこむがめげてる場合じゃない。
「松山が前じゃ、高村、黒板見えないんじゃね?」
「・・・・うるさいな」
プイとそっぽを向く高村。
・・・・失言だったか。
いや、でも挽回できるはず。一学期は隣キープなんだから。

ところがその浮き立つ気持ちがぶっ飛ぶ出来事がそのあとに起こった。
休憩時間。
トイレに行って戻ってきたオレの目に飛び込んできたのは、
椅子に腰を掛けて上向き加減の松山と、超至近距離で松山を上から覗き込む高村の姿。
松山が腕を回せば簡単に抱え込まれてしまう距離。
昨日神社で見たものと松山たちが重なって、体が一気に冷えた気がした。
「うーん…ごみとか埃が入ってるようには見えないけど・・・・」
高村の声でようやく事態が呑み込めた。
よく見れば松山の手には小さな鏡。
「どう?」
心配顔の高村がオレを見上げてきた。慌ててオレは松山の充血気味の目を覗き込む。
高村はオレに場所を譲る形で松山の真ん前からどいて様子を見守っていた。
「・・・・うーん・・・・よくわからんけど・・・・」
ちゃんと見れてないとも言う。
まだ気持ちが落ち着かなかった。
高村は松山に眼科に行くことをしきりに勧める。ひどく心配してるようだった。
「メガネとか似合わんぞ、お前」
その場の調子に合わせて言ってみる。
「ほっとけ。ありがとな高村」
そういうと松山は高村に手に持っていた鏡を渡し、受け取った高村はそれをスカートのポケットにしまう。
オレは胸がざわついて仕方なかった。

その後もチラチラと隣の席の高村を見てはそわそわする。
この距離の近さに浮つく気持ちだけじゃない。
さっきのあれは、高村にとって意味があるのか無いのか。
あの距離は、高村にとって意味があるのか無いのか。
気になると確かめたくなる。
確かめないと、どうにかなりそうだ。

「ちょ、高村。こっち」
午後の移動教室の前。
人がいなくなったタイミングを見計らって教室の後ろに高村を呼ぶ。
呼ぶまでもない、オレたちの席のすぐ後ろ。
だけど高村は素直にオレの傍に来てくれた。
「なあ」
「うん?」
「なんで、わざわざ高村に鏡借りるわけ?」
さっきの一件だとわかるまで少しの間が空いて、それから高村はさも当然という様子で答えた。
「私が鏡を持ってるからでしょ?」
「なんで持ってるの知ってるわけ」
「女の子なら普通に持ってると思う」
そういうものなのか。
驚くオレに高村は驚く。
あ、今絶対、女慣れしてるくせにそんなこと知らないのかって思っただろ。
けどこれではっきりした。
高村にとって、さっきの松山とのやり取りに特別な意味は何一つないってこと。
今この状況でのこの距離にすら、彼女は全く無防備だ。
それはそれでモヤモヤしたものが残らないでもないけれど、高村の信頼だとも言える。
「じゃ、オレも高村から借りよっと」
高村は呆れ気味に笑う。この頃は親しみがこもってる気がする、高村の呆れ笑いだ。
それから二人で教室移動に向かう。
途中、思い出した様子で高村が言い出した。
「今度の日曜日、荒井に会うよ」
その話はすでに本人から聞いていたけれど、高村があまりに嬉しそうだったから気になった。
「なんで?」
なにも知らないふりでオレは聞いた。
「だって去年担任だった先生の結婚式にみんなで行けることになったの!」
その答えと高村の笑顔に心底ほっとする。
荒井が理由じゃなくて良かった。
「あいつに何か伝言ある?」
オレと荒井の友情を純粋に信じている高村は、親切心から聞いてくれているんだろう。
「じゃあ、高村めちゃんこおもしろいって言っといて」
「やだ」
即答。
その顔、反則だ。
「面白いとか、サッカーくんの感覚がおかしいだけだからね?」
違う。高村が気づいてないだけだ。
高村といると、気持ちが弾む。
どうしようもないくらい、楽しくなってるんだ、オレは。


それからは毎日があっという間に過ぎてしまうようになった。
オレの言葉にどう反応するか、つぶさに観察できるこの距離は
高村が本当はどういう子かを知る、最高の機会になった。

最初の頃なかなか目が合わなかったのはやっぱり避けられてたらしい。
それはまあなんなんだけど、今は多少は高村のオレに対する評価が上向いたのか、
今はきちんと、まっすぐオレの目を見て話してくれる。
そうなると、高村の感情はすごくわかりやすくなった。
オレの言葉にいちいち瞳が揺れる高村を見るたび、オレの気持ちも揺らされる。
人の言葉をどう受け取っていいか戸惑うのは、オレにもすごく身に覚えがあった。
まるで小学時代のオレを見てるような気分になる。

高村を傷つけたりしないよ。
オレは高村を守ってあげたいんだ。

それを伝えたくて、一生懸命言葉を選ぶ。
そうしてるうちに気づく。
オレは今まで随分軽い言葉を口にしてたってことに。
そして高村はいつも言葉を慎重に選んでるってことに。


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