☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


108 最後の年20


二学期が始まると、最後の学園祭までの短い時間ではあるけれど
学校中がふわふわとした空気に包まれる。
それはたとえ受験生でもおんなじで。

さすがに一二年生の頃のように凝ったイベントは出来ないけれど
最後の思い出作り。
みんな気合入ってる。

私のクラスは去年好評だったカフェを今年もしようということになった。
とは言っても同じことをしてもつまらないからって、
今年は売り子役は男子に限定。
理由は、イケメンが多いから。



「理由聞いたときはちょっとどうかなって思ったけど、
このお客さんの入り方だと納得するしかないね」
完全に裏方である女子は、カフェの様子を見守りながら調理番。
女の子ばっかだよ、お客さん。
前売りチケットの売れっぷりからしてすごかった。
メニューのネーミングも、なんというか・・・・・口に出すのが恥ずかしいような
よくもまあこんなこと考えたなぁ、なんて思ってしまったけれど、
世の中にはそういう嗜好のカフェが実在するらしい。
目の前に広がる光景でもすごいのに。
これ、ガチで商売してるお店ってどんな世界だ。
「稜ちゃん、世間知らずすぎるよ。大学入ったらさ、ぜひ行ってみてよ。
あの辺りたくさんあるからー」
「・・・・・いい」
そもそも何で知ってるんだ、そんなこと。
みんな、すごい情報網だな・・・・・。
「アハハ、稜ちゃんの場合、彼にやってもらえば済むもんねっ。一番人気じゃん?」
友達のからかいに思わず顔が熱くなる。

私とサッカーくんのことは、あっという間にみんなに知られることになった。
全てはナル君と水島君の仕業だけれど。
そうなること、サッカーくんは予見してたような空気があって。
この人たち、いつの間にかへんてこなチームワークができてるみたいでいやだいやだ。
なんなのよー。

ようやくサッカーくんも私も仕事の時間を終えて、ほっと一息。
カフェで出していたケーキとドリンクをもって学園祭の会場に使われてはいない特別棟の廊下に向かう。
「あー、ようやくゆっくりできる」
「お疲れさまでしたー」
「お疲れー」
冷たいジュースがのどを潤す。
「あ、やっぱうま。これネーミングは最悪だったけどみんなうまいって言ってたな」
『幸せいっぱい両想いケーキ』と名付けられたチョコケーキをサッカーくんは美味しそうに頬張る。
『片思いの胸いっぱいケーキ』と名付けられてしまったレモンケーキと人気を二分していた。
「いちいち恥ずかしい商品名言わされて地獄以外のなにものでもなかった・・・」
女の子たちは喜んでたけどねー。
「ふふ、ほんとにお疲れさまでした」
「・・・・ま、お前もずっと準備頑張ってたし。当日しか仕事しないオレが文句言うわけにいかないだろ」
「売り上げ、貢献してたもんね。さすがモテ班」
前売りチケットの宣伝と販売も女子比率の多い文系クラスには男子が行っている。
意外なことにナル君水島君サッカーくんの班は群を抜いて売り上げが良くて「モテ班」と名付けられた。
「あのなー。そういうこと、彼女が言うなよ」
こつんと軽く頭をつつかれる。

あの告白から、周囲の私たちを見る目が変わった。
そのほとんどが嬉しいことに好意的な視線だけれど、中にはそうじゃないものもある。当然だけど。
それを気にせずにいられるのは、サッカーくんがすっごく「彼女」扱いしてくれているから。
大事にする。
そう言ってくれた言葉を彼は有言実行してくれている。
・・・・正直、恥ずかしくてしかたないんだけど。
けれど嬉しい。
すごく、嬉しい。

ふと、サッカーくんの制服のズボンのポケットが変に膨らんでいることに気が付く。
私の視線に気が付いた彼は、しまったという顔をした。
「捨ててくんの忘れた」
独り言に近い彼のボヤキに、大体察しがついてしまった。
なんと言って良いか言葉を探すけれど、彼の方が先に口を開く。
「一度断ったんだけど、どうしてもひいてくんなくて。せっかくの雰囲気壊すわけにいかなくて。悪い」
「ううん、気にしてないよ」
「気にしてない?」
「あ、違うの、それは気になるけど、でもサッカーくんが私に謝ることじゃないしっ」
上手く言えない。
だって、サッカーくんは何も間違ったことしてない。
それに、きっとその手紙を書いた子だって、どうしても彼に伝えたい気持ちがあったに違いなくて。
それを私が咎めることなんて、できない。
それよりも。
「捨てるって・・・・どうして?」
「読む意味ねぇだろ。今までだってそうだし」
「えっ?捨ててたの?全部?」
頷くサッカーくんに驚かされる。
「言っただろ?オレ、お前以外興味ない」
「う」
嬉しい気持ちはないわけじゃない。
でも。
でもね、サッカーくん。
「わかったよ。めんどくさがらずにちゃんとこれ返して断ってくる。それでいいだろ?」
「・・・・え」
「なんだよ、その顔。まだ不満あんの?」
「う、ううん。ないない」
「呆れた?」
「ううん。驚いただけ」
やけにあっさり折れた気がして。
「あのな、高村。オレ、他の誰になにを思われてもかまわないけど、お前の嫌うことはしたくないって思ってるから。
すぐにはその、直んないけど、努力はするから」

「顔の広い水島達に頼んでオレらのこと広めてもらったのは、こういう面倒を避けたかったからなんだけどな。
それでもまだこんなもん渡してくるやつの気が知れないってのがオレの本音だよ」
「・・・・・うん」
「捨ててくるつもりだったのもホント。お前に見つかって、しまったって正直思ってる」
「うん」
「けどこれを書いた奴の気持ちを考えたら、やっぱダメ、なんだよな、そういうのは」
「そうだね」
「だから、ちゃんと断ってくる」
「ん」
サッカーくんは、一生懸命、私の気持ちを汲んで行動しようとしてくれてる。
そのことが嬉しい。でも・・・・・。

「でもさオレ、ホントにお前以外のやつの気持ちなんて、どうでもいいんだ」
ごめんって言うサッカーくんを前に、私は言葉を失う。

「高村?怒った?」
黙り込んだ私にサッカーくんは不安げに聞いてきた。
違う。
首を横に振る私に彼はさらに困った様子で顔を覗き込んでくる。
そんなことをされたら、とても心臓がもたない。

「高村?どうしたんだよ?」
心配、というより戸惑っているサッカーくん。
この人に大切にされればされるほど、わがままな自分になっていくのが怖くなる。

「・・・・・私は、誰かを想っている人を、好きになったことがないけれど・・・・」
「うん??」
「でももし、好きになったとしても、そんな風に、それでも気持ちを伝える勇気なんて持てないから」
だからこの手紙を書いた人のことをすごいと思う。
そしてそんな強い気持ちを持ってる人に負けないほどサッカーくんを想ってるのか、わからない。
それで、不安にもなる。
そういう強い気持ちを持ってる人と、彼が会って話すことが怖いと思う。
そんな身勝手な自分が、大嫌いな自分が、ここにいる。

サッカーくんは、私の話を黙って聞いてくれて、困ったような顔をして笑った。
「そういう高村が、オレは好きだよ」
「え」
今の私の話とサッカーくんの言葉とがつながらなくて、思わず彼の顔を見上げようとして・・・
できなかった。

サッカーくんに抱きしめられたから。

「・・・・・そういう高村だから、いいんだ」

心臓が割れそうなくらいにバクバク音を立てて、息が止まってしまいそうだった。

「いつだって高村は、正しいことがなにかわかってて、けどそれが怖いって気持ちもちゃんと素直に言えるから
オレはいつも羨ましくて・・・・・いつも励まされた。お前が迷うのを見て安心するって言ったらお前は怒るかもだけど、
お前も同じなんだって思ったら、一人じゃないっていうかさ、頑張れる気がするんだ」

いつも、近いところにいた。
触れられたことだって、何度だってある。

だけど。

こんな風に抱きしめられたのは、初めてで。

こんな風に彼が思ってたなんて知らなくて。

息が・・・できない。


「オレ、もっと高村のこと知りたい。もっと高村のこと、教えて。そんで、オレのことももっと知って欲しい」
「うん・・・・」
声が震えてしまう。胸が痛い。
ああ・・・・ダメだ。
もう限界っ。

えいっとばかりにサッカーくんを思い切り押し戻す。
「え、たかむら・・・?」
「ご、ごめんっ。心臓、止まっちゃいそうだからっ」

彼と距離を取って、大きく息を吸い込んでは吐いて、また吸って。

「・・・・・・・マジかよ・・・・」
サッカーくんの驚きの表情に、また呆れられたかと思ったけれど。
「ヤベ」
言うなり彼は顔を真っ赤にして口を押えて顔を逸らす。
そんなになにが面白かったの???
とは思ったもののそこを突っ込む余裕なんてなかった。


関連記事
スポンサーサイト

<< 109 最後の年21  TopPage  107 最後の年19 >>

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

トラックバック

トラックバックURL
http://lovesweetsweetberry.blog54.fc2.com/tb.php/459-709c1150




Copyright ©☆きらきら☆. Powered by FC2 Blog. Template by eriraha.

FC2Ad