☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


104 最後の年16


電車で一時間ちょっと。
平日と言えど夏休み。
人混みがお互いに得意ではない私とサッカーくんは早い時間の電車で水族館へ向かった。

八月の終わり。
もう来週には二学期が始まる。
完全に受験シーズンがスタートすることになる。
本当に最後の息抜きになりそうだ。


開館と同時に中に入れたおかげで中はすいていて快適に館内を見て回れた。
サッカーくんが早々に館内のしおりとにらめっこしてイベントを回る順を決めてくれたおかげで
人気の高いイルカショーのシートもベストポジションをとることができた。
「あ!」
座ろうとして何気なく見た隣の人たちに驚いて思わず声が上がる。
向こうも同じリアクションで私たちを驚きの顔で見ていた。
「沢井さん!?」
「あー・・・・・・見つかった」
「え?」
「・・・・とにかく座れば?後ろの人に迷惑だよ」
後ろにはまだ人は来ていないけれど、私とサッカーくんはいそいそと腰を下ろす。
隣の女性がにこやかに笑顔で迎えてくれた。
そう。
沢井さんは女性連れだった。
しかも、すっごく綺麗な人。
笑顔は可憐という言葉がよく似合う、沢井さんとは正反対の控えめな雰囲気を持つ人だった。

「すみません、騒がしくして」
「いいえ。こんなにたくさん人がいる場所で知り合いに会うなんて、驚いて当然ですもの」
わーわー!!
すごく優しい!しかも上品っ!!
おじょーさまだっ!!!

「あの・・・デート、ですか?」
思わず突っ込んだ質問をしてしまう。
「あら、それは・・・・・・・、どうなんでしょう?」
女性は笑顔で沢井さんを仰ぎ見る。
「それ以外、どういう理由があると思うんだ」
苦いものを噛んだような顔で沢井さんは、私に向かって言い放つ。
「ふふ、良かった」
可憐に笑う女性に沢井さんは困ったような照れたような、何とも言えない顔をした。

おおおおおおおっ!!!!!

のけ反りかける私を沢井さんはうんざりした様子で睨んできた。
珍しいくらいに表情がコロコロ変わる沢井さん。
これってこれって!!
大本命の予感。

「私、藤澤詩織と言います」
「高村稜です」
私の名を聞いて彼女はほんの少し目を見開き、沢井さんを振り返る。
沢井さんは小さく頷き返す。
それだけで詩織さんが私たちの事情を知っているのだとわかった。
沢井さんがそれだけ心を許している相手だということも。
「私、こういうところ初めてなの。わくわくしますね」
目の前のショープールをキラキラした目で見ている藤澤さん。
決して話題を変えようとしただけではないようだ。
「あ、私もここに来るのは初めてなんです!近くの小さな水族館に小学生のころ行ったきりで」
「まあ、じゃあ私と一緒ね!嬉しいっ」
藤澤さんの目は一層キラキラと輝く。
ああ・・・・・まぶしすぎる。
なにこの可愛らしさ。

すっかり意気投合した私と藤澤さんはショーが始まるまでおしゃべりをして過ごした。

両サイドの男子二人はやれやれって顔をしていたけれど、しばらくすると
「ちょっと、付き合え」
沢井さんはサッカーくんに声をかけ、連れだって喫煙所のあるスタンド奥へと行ってしまった。
デートの時くらい我慢したらいいのに。
「今は日に数本だけ。随分減ったのよ」
藤澤さんは笑みを湛えたままそう言った。
奏さんが病気になってから沢井さんの喫煙量が思い切り増えていたけれど、
彼が亡くなってからの沢井さんは少なくとも私の前では吸うことは無くなっていた。
落ち着いたのは藤澤さんの存在も大きかったに違いない。
そんな気がした。

「今も落ち着かなくなると欲しくなるみたい。ふふ、高村さんに見つかったのがよほど恥ずかしかったのかしら」
「え、わたしですか?」
「ええ。悠一さん、高村さんの前ではかっこつけていたいみたいだから」
「えー。そもそも沢井さんは隙がないですよ」
私の言葉をニコニコと聞いている藤澤さんを見ていると、どうやらこの人の前ではそうでもないらしい。
ナルホド―。
そりゃ、見られたくなかったに違いない。

スタンド席の後方にある喫煙所の灰皿前でタバコをふかす沢井さんと、付き合わされているサッカーくんを振り返る。
二人は何か話しているようにも見えた。
沢井さんに向かって手を振る無邪気な藤澤さんに、彼は小さく応じてみせる。
おおお。
なんて貴重な姿だろう!!

「ね、高村さん」
「あ、稜でいいです!」
「じゃあ稜さん。私も詩織って呼んでくださいね」
いちいち可愛らしい詩織さんに、なんだか私まで照れてしまう。
「優しそうな彼ね。一緒の大学目指してるんでしょう?すてきね」
「え、あ、いえ、そんなんじゃ」
「今はまだお友達なのね。ふふ、そういうのもいいわよね」
「詩織さんたちは・・・・」
「残念ながら、まだお友達」
いたずらっ子みたいな笑顔を見せる詩織さん。
もしかすると想像しているよりも年上なのかもしれない。大人の余裕を感じる。
「デートのつもりで誘ってくれたことは稜さんのおかげでわかったけれどね」
「沢井さんて、案外ヘタレだったんですね」
「ふふっ。そうね」
詩織さんは楽しそうに笑う。
「見た目よりもずっと不器用な人なのよ。野上さんや稜さんの前では年長者みたいに振る舞ってたようだけど」
「私、沢井さんにずっと助けてもらってました。今も勉強を教えてくれたり食事に連れて行ってもらったり、
ほんとならもうとっくに関わりなんかないのに、いろいろ気にかけてくれてます」
「関わりもないなんてそんな寂しいことを言わないで。
私と稜さんが今日出会ったのは偶然だけど、だからって明日にはもう関わりがないなんて言われたら、私は寂しいわ」
詩織さんのまっすぐな言葉に胸が詰まる。
初めて、ほんとにさっき会ったばかりだというのに、どうしてこの人の言葉はこんなに心に響くんだろう。
「これからもずっと、悠一さんも私も、稜さんの友人でいさせてね。もちろん彼氏さんも」
「サッカーくんは、彼氏じゃ・・・」
「サッカーさんというのね。ふふふ、教えてもらえないままかと思った」
「あ!!ご、ごめんなさいっ!ついうっかり!!」
「いいのよ。きっと彼、サッカーさんも名前を言ってないことすら気づいてないでしょうし。
二人とも私たちを見て、すっごく驚いた顔してたもの」
あああ!!重ね重ね失礼なことを!!
「でも悠一さんは気づいてて黙っていたわね。あなたたちがここに来てたことも、とっくに気が付いてたようだったし。
あの人、都合悪いときはすぐ逃げちゃうんだから。今も、ね?よほど私とサッカーさんを近づけたくない理由があるようよ。
あとで追及しないといけないわ」
ほんの一瞬詩織さんの瞳に宿った鋭い光。うーん、こっちは追及しない方がいいみたい。
沢井さん、完全に尻に敷かれている感じがひしひしと伝わってくる。
けれどとてもよくお似合いのような気がする。
詩織さん、素敵な人だ。
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