☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


100 最後の年12


「本当にここでいいの?」
沢井さんは、公園の前で車を停めたもののやっぱりどこか心配そうだった。
ここは奏さんの暮らしていたマンションのすぐそばにある公園。
何度か二人でここに散歩をしに来た、桜が綺麗な場所。
高校の合格の報告に来た日、奏さんが夕暮れの桜を見に連れて行ってくれた、私にとっては忘れがたい場所。
ここからは奏さんのいた部屋が見える。

「稜ちゃん、やっぱり俺も付き合うよ」
「大丈夫ですってば」
笑って車を降りる私。
「それじゃ、また」
バイバイと手を振って沢井さんと別れ、公園に入る。



葉桜が夏の日差しに映えて綺麗だ。

ゆっくりとその中を私は歩く。
隣に奏さんがいてくれる。
彼の存在を隣に確かに感じた。


見慣れた風景。
奏さんの部屋が見える。
知らない人が暮らしているのが、ここからでもはっきりとわかる。
ベランダには見知らぬ洗濯もの。
ひらひらとTシャツが風に揺れている。

ここに来ていた頃にはなかった新しいビルが
ずっと前からそこにあったみたいに、当たり前のような顔をして
ここから見る風景の中にいる。



真夏の日差しの中、ひと気の少ない公園の中のベンチに腰を下ろす。

小さく息を吐く。

ねえ、奏さん。
私、一生奏さんのことだけ想うんだと思ってた。
たった一年なのにね。
私って薄情な人間だよね。


でも、私にとってはとてもとても大切な一年だったんだ。
奏さんを喪った悲しさと、
ずっと寄り添っていてくれたサッカーくんのあたたかさ。

奏さんを想う気持ちとサッカーくんを想う気持ちは、同じものではないけれど
それでも、この気持ちを大切にしたいって思ったんだ。
誰かのことを好きって思える気持ちを、ごまかしたりしないって決めたから。
奏さんに出会えていなければ、きっと気付けないままだったサッカーくんのほんとの思いに気づけたから。
大事にしたいって思ったんだよ。


こんなにも身勝手な私を、それでも奏さんは許してくれちゃうんだろうなあ。
それが寂しいとも思うなんて、ホント身勝手だ。
だって
奏さんはちっとも私のこと怒らないんだもん。
ちょっとくらい、怒ってくれたら良かったのに。
いつの間にかとてもとてもわがままで欲張りになっちゃったよ、わたし。

「・・・・ふふっ」
奏さん、ほんとにいつも私に甘い人だったなあ。

まるで雛をかばう親鳥みたい。
いつだって大きくてあったかい翼の中で私を包み込んでくれていた。
奏さんのくれる【大丈夫】は、弱虫の私の心を育んでくれた。
奏さんが私にとって心休まる場所であることは、今もこれからもずっと変わらない。
だから、怖がらずにはばたいてみようと思う。
上手く飛べなくてもいいんだ。
それが私の飛び方なら、それで構わない。

「・・・・・行ってくるね」

立ち上がり、奏さんにそう告げる。

いってらっしゃい、って。
奏さんの声が聴こえた気がして振り返る。
風に揺れる葉桜が、優しく音を立てた。

「奏さん、行ってきます」
バイバイと笑顔で手を振って、歩き出す。



時刻は夕方。
だけど夏の太陽はまだまだ沈む様子はない。
公園を出て駅に向かう。
結構な距離だったけれど、今の私には心地良かった。

駅方面から歩いてくる人たちは浴衣姿が目立つ。
お祭りでもあるのかな、って考えてそれから気づく。
今日は花火大会。

奏さんと最後に見た、あの花火大会の日だ。


エレベーターを七階で降りる。
結局来てしまったけれど良かっただろうか・・・。
駅前から病院行きのバスを見かけて、思わず乗ってきてしまったけれど。
もう交代の時間もとっくに過ぎてる時間。
詰め所で一人、書き物をしている看護師さんに恐る恐る声をかける。
知らない看護師さんだったけれど、たいして説明してないうちに「奥の部屋ですよね、どうぞ」ってすんなりと通してもらえた。
ここまで来ておきながら断られなかったのはほっとしたけれど、これはこれで拍子抜けだ。

この間は、行くことのできなかった病室に続く廊下を何とも言えない思いで進む。
空室のはずの通い慣れた奥の部屋には、明かりはついていないのに人の気配があった。
え、どうしよ?
躊躇いまくって固まる私。
思わず詰所の方を振り返ると、看護師さんがどうぞって手ぶりで勧めてくれる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
たっぷり迷ったけれど、最初の花火の音で勢いづけてドアを思い切って開けた。

「え」
室内には思いがけない数の人たちがいた。
窓辺に立って外を見ていたらしいその姿勢のまま一斉にみんながこっちを見る。
それが今日法要に来ていた奏さんのお友達だとすぐに分かった。
沢井さんもいる。
「ちょうど始まったとこ。ほらおいで」
沢井さんに腕を引かれて窓辺に連れていかれる。
「ほら、観ないともったいない」
私の戸惑いを振り払うように沢井さんが頭をポンポンと叩いて窓の外を見るように促す。
ダダダンッと大きな花火の音が響いて、それから夜空に綺麗な大輪の花が次々と咲き誇る。
一瞬明るくなった室内。
「これ、どうぞ」
隣の人から差し出されたのはカップアイス。
奏さんがよく食べてたやつだ。
「あいつ、食べたいだろうと思ってさ」
よく見れば皆さん、手に手にアイスを持っている。
そして私と沢井さんの立つ窓辺に1つ、スプーンを添えて置かれていた。
手渡されたアイスのひんやりとした感覚と甘い香り。
「・・・・・いただきます」
奏さんと一緒に。
みんなで一緒に。


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