☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


94 最後の年6

ほんとのところ、すごく不安だった。
奏さんがいた場所に、私は何もなかった顔で行くことができるだろうか、って。
思い出すのが辛いとか、思い出したくないとか、そういうんじゃない。
その逆に想いが溢れてまともじゃいられなくなるんじゃないかって思うと、怖い。
この一年、奏さんのことはいつだって当たり前のように思い返してはいたけれど、
その量をどっかでセーブしてた自覚はある。
奏さんとの思い出や彼への想いに強く惹きこまれてしまえば、自分自身耐えきれる自信は
今もやっぱりない。
彼の存在がはっきりとあった場所に、私は、行けるのだろうか。

そういうことを考えていたせいだろう。
病院までの道のりを、サッカーくんと何を話したのか、あまり覚えていない。
病院の玄関が見えた途端に立ち止まった私の体調を心配したサッカーくんが
突然額に手を当てて熱がないか確かめてきたときすら、
私はまともな反応(この場合は驚くとか慌てるとかそういうリアクション)もしないで
彼が私に熱がないことを確かめてその手を離すまで、おとなしくしていた。
あとで思い返してみたらサッカーくんもまた、この時点でおかしかったのだ。
この時、彼もまた気がかりなことで頭の中をいっぱいにしていて、
それは四男くんにかかわることで、そのせいで
「幼い弟を気に掛けるお兄ちゃん」の行動を私相手に取ったことを彼もこの時自覚してなかった。

「熱はないけど、顔色悪いな」
超至近距離の思案顔と目が合って一気に現実に引き戻された私。
それはサッカーくんも同じだったらしく、お互い同時に慌てて距離を取る。
「ご、ごめんっ!!オレなにやって…っ」
「~~~~っ」

びっくりしたびっくりしたびっくりした!!!

「四男と間違うとか、ありえない・・・・ごめんっ」
「いや、いいよ、心配なの当たり前だもん。気にしないで。私もぼんやりしてたし」
「本当は無理してんじゃないのか」
「え」
「疲れたまってない?オレと違ってお前はクラス委員の仕事とかもやってるし」
ああ、そういう意味か。
「疲れてるわけじゃないから。ほんと、ただのぼんやりだって。行こう?四男くん、待ってるし」
先を促すと、サッカーくんも歩き始めた。
病院の自動ドアが開く。
通っていたころは気が付かなかったけど、やっぱり病院の空気って独特な何かがある。
エレベーター横のフロア案内板を見つめているうちにエレベータがやってきてサッカーくんについて乗り込む。
「あー、高村。違う」
「え」
「5階だよ」
「・・・・あ!ご、ごめん・・・っ」
いつものように押したボタンは、奏さんのいた7階。
「オレらだけだし大丈夫だよ」
サッカーくんは笑って慰めてくれる。
でも私は、多分、ちゃんと笑えてない。

幸い途中で誰かが乗ってくることなく、5階に到着する。
だけどサッカーくんは降りようとした私を押しとどめて閉じるボタンを押した。
「え、なんで?」
サッカーくんは何も言わず、7階に着いて開いた扉の向こうへと私を連れて出た。
「どうして・・・・」
困惑よりも混乱の方が勝って、私はその場で立ち尽くす。
反応したのは、詰所だった。
「稜さん?」
何度もお見舞いに通ったこのフロアの見覚えのある看護師さんたちが驚いた様子で私を見た。
「こんにちは。久しぶりねぇ」
にこやかにそのうちの一人が詰所からこちらに出てきて声をかけてくれた。
私はその場から動けなかった。
「元気にしてた?今日は、どうしたの?」
看護師さんは私の肩に優しく触れ、サッカーくんと私を見る。
「オレの弟の見舞いに来てくれたんです。でも、ここのことも気になってたみたいだから」
一瞬存在を忘れていたサッカーくんが、きびきびと答える。
「学校のお友達ね?ありがとう来てくれて。弟さんの具合は?」
「骨にひびがはいった程度で、元気です」
「そう。すぐに退院できるといいわね」
「ありがとうございます」
「稜さん、良かったらお部屋、見て行く?」
穏やかな笑顔で問われて、私はひどく動揺した。
お部屋って、奏さんの病室のこと?
そんなの・・・・・・・やだ。怖い。
頭を横に振る私に、看護師さんは優しくほほ笑みを湛えたままだった。
「じゃあ奥でお茶でもどう?私、これから休憩なの」
穏やかなほほえみ。
私が通っていたころと何も変わらない。
奏さんがいた時と何一つ変わらない。
奏さんはもういないのに。
どこにもいないというのに。
ここは奏さんがいてもいなくても何も変わらない。

いやだ。ここにいたくない。
必死に首を横に振る。
ここは、奏さんがいたところ。
最期を迎えた場所。
いたくない。
こんなところ、いたくない。
固く目を閉じたとたん、あの夜の鮮やかな花火と、私の手のひらから零れ落ちる奏さんの手の感覚が蘇ってきた。
世界がゆがむ。

「高村っ?!」
「稜さん、しっかりして」
サッカーくんの声と看護師さんの声を聞いたのを最後に私の世界は暗転した。

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