☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


91 最後の年3


サッカーくんの部屋は、びっくりするくらいにシンプルだった。
机とベッドしかないと言ってもいいくらい。
部屋の真ん中のまだ新しいテーブル。
そこに1つだけ無造作に置かれた可愛らしい青色のクッションがやけに浮いている。
「サッカーくんて、めちゃくちゃ断捨離系?」
「だん・・・?なんだって?」
机の上に広がる勉強中の痕跡がなければ、使われていない部屋にしか見えない。
なんというか、意外だ。
結構多趣味な人のように思ってたんだけどな。
「勉強に集中するために全部処分したんだよ」
「えっ?そーなのっ?」
「そうでもしないと、とてもお前には追いつけないだろ。オレにだってそれくらいの意地はあるんだよ」
意地って。


けどそれが意地だとしても、サッカーくんは結果をちゃんと出してるわけで。
「すごいなぁ・・・・・・・サッカーくんって行動力めちゃくちゃあるよね」
考えてみたら、昔っからそうだ。
いつもそうだった。
私がどれだけ避けても、構わずぐいぐい押してきて、そういうサッカーくんの勢いに結局背中を押されてきた。
サッカーくんと過ごしていたあの頃。
「どうした?急に黙りこんで」
「ん?ううん、なんでもないよ。ちょっと殺風景すぎて逆に落ち着かなくない?」
「いや、今のオレにはちょうどいい。そこ座れよ」
サッカーくんが指し示す青いクッションをじっと見つめる。
「おかしな誤解すんなよ?親父がもらってきたやつだ。見てみろ」
そう言ってサッカーくんはクッションをひっくり返す。
そこには小さい男の子に人気のアニメのキャラクターがプリントされている。
「あー!めちゃ可愛いっ!!」
「可愛い?これが?」
サッカーくんは眉をひそめてるけど気にしない。
「こっち向けで使う~~~」
キャラクターを表に向けてポスンと腰を下ろす。柔らかくて座り心地が良い。
「ふふ」
「気に入った?」
「うんっ」
私の様子を笑いながらサッカーくんも勉強道具を机からテーブルに移動させる。
「んじゃやろっか。英語からな」


「っと、一回休憩しよっか。もう四時だぞ」
「え、うわ、ホントだ。はやっ」
気が付けばそんなことになっていて二人で驚く。
「誰かと一緒に勉強しててこんなに集中したの、初めてかも」
普段は、人の気配があると落ち着かない。たびたび集中力を切らしてしまうんだけど。
「けど一気に疲れたな。飲み物持ってくる、待ってて」
「あ、うん」

一人で部屋で待っていると、家の前で車の気配と、それから玄関を開ける音。
ただいま、って男の人の声。サッカーくんのお父さんだ。
誰か来てんの?って声は、サッカーくんとよく似た感じで、どうやら弟さんっぽい。
それから階下では何やらにぎやかに何か話してる感じはあるもののサッカーくんの声はしない。
・・・・・・挨拶、しないでいいのだろうか・・・・?

誰か帰ってきても気にするなって、サッカーくんには言われてたんだけど。
でもよそのおうちに行くのに、挨拶もしないのってどうなんだろうと思って、念のため手土産のお菓子は持ってきたんだけど
それもサッカーくんに叱られた。
毎回こんなことしてたらキリがないだろって。
つまりこの先も、こうやって勉強会をしようと思ってくれてるってことだ。
それならそれで、毎回サッカーくんちに寄せてもらうのに挨拶しないのは、やっぱりよろしくないだろう。
でも、今行くのって、どうなんだろう???
悩んでいると、カチャカチャという食器の音と、階段を上がってくる足音がした。
慌ててドアを開けると、お菓子と飲み物を載せたと礼を持ったサッカーくんが現れた。
「お。サンキュ」
「あの、挨拶、しときたいんだけど」
「・・・・言うと思った。帰りの時でいいよ。親父もお菓子のお礼言いたいって言ってるし」
必要ないって断られると思ったらすんなりとサッカーくんは許してくれた。顔はちょっと不満そうだけど。
「うん。ありがと」
「なんでお前が礼を言うんだよ」
変なやつ、とサッカーくんは笑って、お菓子を勧めてくれる。
「つかおまえが持ってきたやつだけどな。いただきます」
意外なことにサッカーくんは礼儀正しく言ってからお菓子の包装を破る。
なんだか、可愛いかも。
ここに来てからずっと、サッカーくん、怖くない。
いっつも笑顔だったころと変わんない。
やっぱりこれがサッカーくんの素なんだろうなぁ。
「なに笑ってんの」
「え、笑ってないよ?いただきますっ」


サッカーくんちを出たのは、七時すぎ。
結局あの後もまたがっつり勉強できて、やり切った感ハンパない。
サッカーくんのお父さんが車で送ろうかと言ってくれたけど、サッカーくんが自転車で送ると言い張って家を出てきた。
帰りに買い物を頼まれてたのが、なんか意外だったんだけど。
「疲れてなければ、歩かねえ?」
夕暮れの道を自転車を引くサッカーくんと並んで歩く。
「なんかあっという間だったな。来週は朝からやろうぜ」
「そうだね。ねえ、スーパー寄るんでしょ。あまり遅いとしまっちゃうし駅まででいいよ?」
「いいよ、明日の朝飯のパンなんてコンビニで足りるし高村が一人で帰れるか心配だし」
「なによ、それ。帰れますー」
「送らせろよ。こういう時くらい。な?」
いつもなら恐縮してしまうところなのに、今日はなぜか頷いてしまう。
サッカーくんの話し方がいつもよりずっと優しいからかもしれない。
「あのさ、高村がヤじゃなかったら、これからも一緒に勉強しようぜ。俺絶対合格したいし」
「うん。一緒に合格しようね。お祝いもしよう」
「いいな!どっかパーッと遊びに行こうぜ」
「うん!」
とりとめもない会話の中の、約束にもならないような約束。
だけどたとえ言葉だけの約束でも、嬉しいと思った。
こんな風に何のためらいも戸惑いもなく気楽に話せる人は、私にはそんなにいない。
「高村といると、やっぱ落ち着く」
不意にサッカーくんが呟く。
私と同じ思いを彼も抱いてくれている。
そのことがひどく心にしみてくる。
続く言葉は互いになかったけれど、並んで歩くその気配は優しくて暖かい。
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