☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


87 まっさらな気持ち8


それからはお互いの近況を報告し合ったり、雑談に花を咲かせて
あっという間に時間は過ぎる。
気が付けば、もう結構な時間。
閉店時間、というのだろうか。そういうものはないようだけど
食べるものも食べきったし、これ以上ここにいる理由がない。

「そろそろ行こうか。家まで送らせて」
「・・・・うん」

断る理由を見つけられなかった。
名残り惜しい。
そういう気持ちになってたから。



帰り道は渋滞で、けれどその時間も話題は尽きない。
私の知らない奏さんの話を沢井さんはたくさんしてくれて
そのたびに私は嬉しい気持ちと、切ない気持ちと、なんだかよくわからなくなってしまうんだけど
それでもこの世の中でこの気持ちを分け合えるのは、沢井さんだけなんだってこと、
そういうことに気づいてしまうとなおさらに、さよならしがたくなってしまう。

そうなってしまうって心のどこかでわかってたから、連絡できなかったのかもしれない。

「なぁ、稜ちゃん」
「ん?」
「ほんとはキミは俺に連絡してくることは無いんだと思ってたんだ」
まるで見透かされたみたいな沢井さんの言葉に、私は思わず息を呑む。
そしてそれを沢井さんは苦笑いする。
「キミの性格はわかってるからな。けど俺に気を回すことは無いよ。
俺はキミに気を遣うつもりはないし、キミもそうしてくれ」
「んー・・・・」
「むしろキミがちゃんと生きてるかどうか心配になるからな。たまには連絡して来なさいよ」
「へ?」
「1の付く日には電話すること。いいね?」
「ちょ、なに勝手に決めてるんですか??」
「勉強も、わからないことがあればその時にまとめて聞いてくれたらいい。
公立高校、塾なしで簡単に受かる学校じゃないよ、うちは」
「うっ」
「それでも目指すと決めたんだろ。だったら使えるものは何でも使えばいい。
キミが本気だっていうなら、その本気見せてみなよ。
言っておくけど親切で言ってるんじゃないから。
ここまでさんざんキミの勉強を見てやってきたんだ。
みっともない受験結果なんて承知しないからな」
「でも私、たくさん質問すると思うし」
「構わない」
「多分一回の説明じゃ理解できないと思うし」
「わかってる」
「怒られるのは嫌だし」
「俺の気の長さをなめるなよ」
「そうやってウソを言われるのもやだな」
「どこがウソだ」
「間違いを認めないとか、ないわー」
「おいおい、キミな」
「でもすごく助かります。ほんとにありがと、沢井さん」
ぺこりと頭を下げる。
「・・・ああ。絶対受かろうな」
「うんっ!!」

そのあとは、1の付く日ってたくさんありすぎって話になって
結局、週に一回は連絡入れる約束をした。

それから家に着くまでは、沢井流勉強法講座をありがたく拝聴しているうちに
どんどん脱線してやたら笑い転げて、自宅に着くころには
妙に軽やかな気持ちになっていた。

多分、私は沢井さんのことだけでなくて、受験のこととか、学校のこととか、
いろんなことをまた一人で思い悩んでいたみたい。
ひっぱりあげてもらって、ようやく気づく。そういうことに。


車を降りて、運転席の窓を開けた沢井さんにお礼を言うと
「考え込む前に、まずは人生の先輩を頼りなさいよ」
沢井さんは憎たらしいくらいの笑顔で言う。
けどすぐにそれは優しげなものに変わる。
「迷ったときは、まっさらな気持ちで考えてごらん。答えは必ず出るから」
じゃあね、と沢井さんは片手を軽く上げて、それから車を転回し帰っていった。
聞き慣れたエンジンの音が遠ざかる。
沢井さんの言葉を心の中で反芻する。
なんだか奏さんが言いそうな言葉。
そういう言葉を選んだのかもしれない。
沢井さんの優しさは、こういう優しさだ。


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