☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


86 まっさらな気持ち7


沢井さんと会うことになったのは、二月最後の週末。
昼ご飯をご馳走してくれるらしい。

七ヶ月もなんの連絡もしなかった私の電話に
沢井さんはまるで昨日も会ってたかと思うくらいに何一つ変わらない気さくさで応じてくれた。
変に緊張している私を気遣ってくれたのかもしれない。
話は沢井さんのペースでトントンと進んで会う約束が決まった。


待ち合わせは駅前ロータリー。
見覚えのある車を見た瞬間、胸が締め付けられる。
奏さんの乗ってた車。
今は沢井さんが乗ってくれている。

沢井さんは、どんな思いであの車を乗っているんだろう。

「稜ちゃん」
運転席から笑顔で手を振る沢井さん。
それに笑顔で答えて、車に駆け寄る。
懐かしい助手席の座り心地。
「元気そうだな」
「うん、沢井さんは?」
「オレもまあまあってとこ。じゃいこっか」
ハンドルを握る沢井さんの横顔は、少しだけ痩せたようにも見える。
親友を喪ってからの彼はどんな風に過ごしてきたんだろうか。

「え。ここですか??」
「うん、予約してある」
「いや予約って・・・」
連れていかれた先は、立派な門構えの料亭。
どっからどう見ても、料亭だ。
テレビドラマでしか見たことがない、風格に満ち溢れた日本家屋。

当日はスカートを履いてきてね、とは言われたし、
沢井さんはカジュアルだけど基本こじゃれてる人だし、
できるだけ違和感のない服装を選んできたけれど。
いやいや、庶民が入っていいとこじゃないよっ!!
「ほら早く。腹減ってんだよ、俺」
沢井さんにぐいぐい背中を押されて中に入る。
その先には、目が回りそうな立派な玄関。
お出迎えの着物姿の仲居さん?が頭を下げてる。
いやぁっ、もう無理無理無理!!!
「ようこそおいでくださいました。沢井様ですね?ご案内いたします」
ひゃあぁぁぁ。
慄く私を沢井さんは面白そうに眺めてとっとと仲居さんのあとをついて行く。
私も慌ててついて行く。
通されたお座敷は、思いのほか小さくてそのことに安心する。
一通りの挨拶を済ますと仲居さんは去って行き、ようやくほっと一息つく。
「なんでこんなすんごいお店なんですか?なんか企んでます??
私、こんなお店でごちそうされるような覚えないですよっ??」
「アハハ、稜ちゃん面白い顔しすぎ。大丈夫。そもそも俺の驕りじゃないし」
「はっ??」
「須藤さん持ち。料理もお任せ。ああ心配しないでも全部最初に出してくれるようになってるから」
ケロッとさも当然そうに沢井さんは言うけれど、
「すどうさんに奢ってもらう理由なんかもっとないですよっ」
わざわざ連絡をもらっておきながら二度もスルーしたのは事実ですけど
だからってこんな仕返し、ありますかっ???

動揺する私と全く平然としている沢井さん。
そこにお料理が運び込まれて会話は中断される。
運び込まれたお料理は、正月かっと言いたくなるほど豪華で盛りだくさん。
美味しそうだけど、見てるだけで胸がいっぱいになってくる。


「あの人はあの人なりに何かしたくて仕方ないんだ。だから受け取っときゃいいって。
それで須藤さんは満足だし、俺らもうまいもん食える。誰も損はないだろ」
「よくそんなことを・・・・・・」
こっちはおかしな汗が出て仕方ないのに、沢井さんの落ち着きぶりが憎たらしい。
「稜ちゃんはとっくに知ってたんだろ、須藤さんが奏介の父親だってこと」
「・・・・うん」
「オレもずっと疑ってはいたけれど奏介は違うの一点張りだし、確認する必要もなかったしな。
それに全然似てるところがないだろ、あの二人。
確信したのは、キミが奏介の手を須藤さんに握らせたあの時だ。
キミはあの後すぐに部屋を出て行ったから知らないだろうけれど、
奏介の手を握っている間の須藤さんは様子がおかしかった。
いつもどんな時も無表情で、ちょっと薄気味悪いって俺は思ってたからな。
それが奏介の手を握りしめたまま必死に泣くの堪えてた」
そうだったんだ。
でもあの時のわたしもまだそこまで確信していたわけじゃなかった。
ただ、ずっと長い間奏さんを支えてきたすどうさんは、奏さんにとって家族みたいな人だっただろうから。
「きっと奏さんは、すどうさんが父親でもそうじゃなくても、構わなかったと思う」
「・・・そうだな。俺もそう思うよ」
「奏さんが一度話してくれたことがあるんです。
お父さんの名前が、「りょうすけ」じゃないかって。
お母さんが呼び間違えた名前がもしかしたらお父さんの名前じゃなかったかって。
けどそれも私と出会った後に思い出したことだって」
「ああ、似てるもんな。りょうとりょうすけ」
私は頷く。

話している間も一応お箸は動かしているけれど、
とても食べきれないし、変な緊張感で味もよくわからない。
なので、そのほとんどを沢井さんに押し付ける。
沢井さんは「もったいない、こんなごちそう滅多に食べられないのに」と言いながらも
次々それらをお腹に収めていく。
この人、痩せの大食いだったんだ!
でもお箸の持ち方も見惚れちゃいそうなくらいに綺麗。
上品にがつがつ食べるとか、器用すぎる・・・。
けど、元々育ちの良さそうなお坊ちゃんの雰囲気だし
こういう場所にも不慣れって感じじゃない。
奏さんも、生まれはお坊ちゃんだし
それに見合っただけの教養もきちんと身につけている人だった。
今更ながらずいぶん場違いな人たちと私は出会っていたんだなぁ。

「あの本ですけど」
「ああ、あれ。奏介が亡くなる数日前に突然須藤さんにあげた物らしい。
あいつなりに何か思うことがあったんだろうよ」
「それならなおさら私が持っているのは・・・・」
もしかしたらそうじゃないかと思って返すつもりで、今日、本は持ってきていた。
「奏介にとってあの本はきっと何より大事なものだったんだよ。
須藤さんは奏介に持たせてやるつもりだったけど、
キミが須藤さんと奏介の関係に気が付くほどに親しい間柄だと知って
キミに託すことにしたそうだ。
本当はキミに直接会って渡したかったらしいけどね、
キミは会いたくないようだからって、俺に仲介を頼んできた。
で、今日キミに会うと言ったらここを使ってくれと言われた。
勿論須藤さんは来ないよ。安心して。
あの人さ、ほんとに偉い人でね。忙しくて時間なかなか取れないんだよ。
弁護士は弁護士でも、何人もの弁護士を抱えて事務所構えてるような人なんだよ」
「へぇ・・・・そうなんですか」
「なんでそういう人が、たった一人の女性の幸せも守ってやれなかったのかね」
沢井さんは香の物を一つ口に放り込みポリポリと食べながら言う。
「なんのための金と名誉だよ」
沢井さんの言葉の一つ一つが胸にずしりと重い。
「だから、キミも俺も、あの人のすることを気にする必要はないのさ。
全部あの人の自己満足だ。それにずっと奏介も付き合ってきたんだ、俺たちもそれでいい」
沢井さんは怒っている。
長い間偽りの身分でずっと傍にいたすどうさんと、それに気づかぬふりをしてきた奏さん。
それを沢井さんは怒っている。
怒っているから、ここに並べられたものをろくに味わいもせず、噛み砕いて呑み込んでる。

それが私は無性に嬉しかった。
奏さんが強いられ受け入れてきた、あまりにたくさんの理不尽を、
彼の代わりに怒ってくれる人が目の前にいることに。

「どうした、稜ちゃん」
「ううん。なんでもない」

パクリと口に入れた小芋の煮物の優しい味が口いっぱいに広がった。

「これ、おいしいです」
沢井さんの箸が止まる。
「これも、おいしいです」
ずらりと並ぶ、不相応な食事。
けどこれがすどうさんの罪滅ぼしだとするなら。
それがたとえすどうさんの自己満足であっても。
その気持ちを受け取ろう。
そう思った。

私が食べたものと同じものを沢井さんも口にする。
もぐもぐと口を動かして、それからごくりと飲み込んで。
「・・・・うん、うまい」
ようやくいつもの沢井さんの笑顔になる。
それが嬉しい。
やっぱり、笑顔がいい。
大事な人にはいつだって笑っててほしい。
そうだよね、奏さん。


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