☆きらきら☆

「だれよりもすきだったサッカーver」掲載中


71 過ぎゆく夏の時間3


「今日の講義はここまで。質問等あればこの後5分間受け付けるぞー」

野々宮センセイの古典の講義が終わり、
参加者は出席レポートにちょっとした感想を書きこむとセンセイに渡し講義室を出ていく。
レポートなんて言うからどんなものかと思ったら、
そんな程度で済んでほっとした。
夏の学習合宿2日目。
講義終了のタイミングは廊下は騒がしい。
けれど初日の浮かれはしゃいでいた空気とは違って、じきに静かになっていく。
それぞれの自習室に移動していったのだろう。
「どうだ、合宿は」
レポートを出しに行くとセンセイはそう尋ねてきた。
「んー・・・・まあぼちぼち慣れてきましたけど・・・」
山の中のセミナーハウスで1週間。
結構長い。
でも実際は勉強ばっかでもなくて、夜は施設内の体育館や天文所などで好きに過ごせる。
多分あっという間に終わるように思う。


「冷静な分析だな」
センセイは苦笑いする。
「お前のことだから、どうせ夜は読書とかして過ごすつもりだろ?
少しはみんなと楽しく遊べよ?」
「・・・・夜は、静かに過ごしたいほうなんで」
「まあな、はしゃぎすぎて疲れるのも良くないが、非日常を楽しむのも大事だぞ」
「・・・・・」
一般的には非日常だと思われることが、私の日常にはたくさんあるんで、もう十分なんですが。
そう言いたくもなったけれど、そんなことを言ったところでセンセイを困らせるだけだ。
「・・・努力します」
「お前、自習室どこだっけ?確か和室だったのは覚えてんだけど」
「二階の和室Bです」
「ああ、そうだったそうだった。あそこはなぜか毎年、真面目なやつがそろうよなぁ。
そういう気が流れてんのかね」
「・・・・気が向いたらすぐゴロ寝できて効率良いんじゃないですかね」
「・・・・高村」
「わかってます。昼寝なんてしませんから」
センセイのジト目に笑顔で返すと、先生は深いため息をつく。
「わかってるならいい。お前はほんとに・・・・・」
ポンポンと頭を叩かれた。
「見回りに行くからな?」
「信用されてないですね、私」
「いや、そうじゃないぞ!仕事だ仕事。見回り当番なんだよ」
「ふーん、先生たちも大変ですね」
講義室から自習室へ向かう階段までセンセイと並んで歩く。
その間、こんなとりとめのない話を交わして、別れた。

夏休みに入って、前期の補習が終わって、2週間。
学習合宿1週間に、後期の補習が終わればもう夏休みも終わる。
家にこもってた2週間を思えば、こうして何かやることがあって
周りに人がいることはすごく救われる。
一人が好きな割に、結局私はひどく独りが苦手なのかもしれない。

和室Bの前には、せいちゃんと見たことのない男の子が話をしていた。
「こんにちは」
私に気が付いたせいちゃんが何か言うより先に、男の子が頭を下げる。
「え、あ。こんにちは・・・・」
挨拶を返しつつ、せいちゃんに目顔でだれ?と問う。
「この子、野球部1年の田沼くん」
あー。せいちゃん、野球部マネージャーだもんね。
「稜ちゃんに話したいことあるって、前から頼まれてたんだ。ね?」
「はい。カントクに聞いてると思うんですけど、俺、余計なこと言ったみたいで」
「・・・・???」
「えとー・・・駅で先輩を見かけたって話です」
「あ」
バイトがばれたかと思った、あれね!!
私が大学生風の男(沢井さん)の車に乗ってたってやつね!!
こいつかっ!!
「カントクから問題なかったって言われて。すみませんでした」
「あーうん、別に私もそれで困ったこととかないし、気にしないで」
余計なことを言いやがって、と思ってたのはほんとだけど、この人が見たことは事実だし。
バイトは、場所こそ違えどあの時してたのは事実だし。
田沼君は、まったく悪くはないだろう。
余計なことをしたのも事実だけどね、まあ、済んだことだし。

話が終わり田沼くんは去って行き、せいちゃんと和室に入る。
すでに自習を始めている人たちがいて、静かに席に座る。
「・・・・・」
男女合わせて十数名。
長細い部屋の中に、窓のある壁に向かって縦長のコの字型に長机が置いてある。
私の席は、女子グループの一番最後の席で、隣にナル君以下男子グループがいる。
決まった部屋割りは無く、適当に好きな自習室に収まればいいらしく、
なんとなく和室が良いなと思ってここに決めた。
せいちゃんたちもそれで良いと言ってくれた。
もう一つの女子グループは全然知らない人たちだけど、すごくまじめそう。
あとからやってきた男子グループ二つのうち一つ、
ナル君たちのグループは、普段のお付き合いからして、この部屋を選んでも不思議はなかった。
でももう一つのグループはやる気のなさそうな、まさにゴロ寝目的な印象。
その中にサッカーくんがいた。
多分前のクラスの友達、なんだと思う。
彼らは騒いだりはしないけど、勉強じゃないことしてる。
その中でサッカーくんは勉強道具をちゃんと出して机に向かってる。
なんだか不思議に見えた。
あまりじろじろ見るわけにもいかないけれど、
たまに水島君たちに声をかけられて、それに無愛想ながらも応えてるサッカーくんの声が聞こえてくると
なんだか、嬉しいと思ったりする自分に気が付く。

今はもう、彼を避ける理由も、多分ない、と思う。
だけど何もなかったような顔なんてできなくて。
でも、こうして少しずつ、ちょっとずつでいい。
彼との間の辛い思い出を乗り越えられたらいいなと思う。


「ちょ、稜ちゃん、これ、意味わかんないんだけど」
隣のナルくんが日本文学史の問題を指して聞いてきた。
「あ、オレもオレも」
その隣の水島君も身を乗り出してくる。
「えっとこれはー当時の政治の流れと併せて考えるとわかりやすくて―」
少し長い解説を二人はフンフンと熱心に聞いてくれた。
「ってことなの」
「おぉーーーーーー」
水島君とナル君だけでなく、他の子たちのリアクションまで聞こえてぎょっとする。
「すっごく分かりやすかった!」
「社会もちょっとわかった気になるよね、今の!」
なんだかよくわからないけど、なんかすごく恥ずかしくなる。
「~~~~~~~~」
「高村先生ってよぼ」
にやにやと笑う水島君に一発パンチをくらわして、熱くなったほっぺたを覚まそうと手をぱたぱたする。
「そーゆーの、恥ずかしいからやめてくださいっ!」
「あはは、照れることないじゃん。みんな分かって得したんだしさ」
「・・・・うー・・・・・」
でもこういうのは、やっぱりすっごく恥ずかしい。
そのあともしばらく気持ちが落ち着かなくて、ただ教科書を見つめているだけになってしまった。

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